けれど、大学を卒業して上京したことで、私にとっての「冒険する場所」は、京都から東京へと変化した。少年漫画で次々と冒険地が移り変わっていくように、私の冒険ステージは、次の場所へと変わったのだ。
上京してからも、年に何度も京都に帰ってはいたけれど、京都は「冒険する場所」ではなくなっていた。
落ち着くお店、大切な人たちが「おかえり」と言ってくれる場所。自分の心の安らぎを感じるための場所……。そう、京都は私にとって、「帰る場所」になったのだった。
「無知の知」に気づく
私が東京にいる間も、京都の街はどんどん変化していた。そのことは、雑誌を読んだり、京都の友人や東京にいる感度の高い知人の話を聞いたりして、なんとなくは知っていた。あいかわらず京都では、魅力的な人たちが、さまざまなおもしろい場所を作り、おもしろいことをしている。
けれど私は、もはや京都にそういう「新しいもの」は求めていなかった。刺激を感じるのは、東京や別の地方で充分で、私は京都に安定を求めていた。ずっと付き合っている恋人に、次第に刺激を求めなくなっていくように、私は「新しいところなんて知らなくても、充分に魅力的だと思っているんだからそれでいいじゃない」と思っていたのだ。
だから毎回京都に帰省しては、同じお店に行き、同じ人に会い続けた。変わらずにその人たちが迎え入れてくれることがうれしかった。おかえり、と言ってくれることがうれしかった。